浦和地方裁判所 昭和51年(行ウ)3号 判決 1979年8月08日
埼玉県行田市大字行田二五四番地
原告
有限会社朝日亭
右代表者代表取締役
蔭山信太郎
埼玉県行田市栄町一七番一五号
被告
行田税務署長
宮下林
右指定代理人
平田昭典
同
井上克男
同
上條晃一
同
井出吉雄
同
清野清
同
中島重幸
同
池田春幸
主文
一 原告の本件訴えをいずれも却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 原告
(請求の趣旨)
1 被告が原告に対し、原告の昭和四七年六月一日から同四八年五月三一日までの事業年度の法人税につき、昭和四九年五月三一日付でした更正処分及び重加算税、過少申告加算税の賦課処分並びに同年九月三〇日付でした再更正処分及び重加算税賦課処分を取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
(本案前の答弁)
主文と同旨。
(本案に対する答弁)
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 本件課税処分の経過
(一) 原告は、昭和四七年六月一日から同四八年五月三一日までの事業年度の法人税について、昭和四八年七月三一日付で課税標準金額を三五万二二円と確定申告し、更に同年八月六日付で右課税標準金額を三九万八一四三円と修正申告した。
(二) 被告は、昭和四九年五月三一日付で課税標準金額を六一六万八四一三円と更正し、重加算税五二万七一〇〇円、過少申告加算税八三〇〇円を賦課する処分を行い、原告に通知した。
(三) 原告は、右重加算税賦課処分に対し、昭和四九年七月二二日付で異議申立を行い、それに対して被告は、同年九月三〇日右重加算税賦課処分を取消す旨の決定を行う一方、同日付で課税標準金額を七七六万二六五三円と再更正し、重加算税二〇万二八〇〇円を賦課する処分をして原告に通知した。
(四) そこで、原告は右被告の再更正処分に対し、同年一一月八日付で異議申立を行った(以下「本件異議申立」という。)が昭和五〇年一月三〇日、右異議申立を取下げた。
2 本件異議申立の係属
(一) 取下の撤回
原告会社代表者蔭山信太郎(以下「蔭山」という。)は被告に対し、昭和五〇年二月三日、本件異議申立取下の意思表示を撤回した。
(二) 取下の取消
仮に、右撤回が許されないとしても、蔭山のした本件異議申立取下の意思表示は、被告の職員阿部調査官が同人を強迫したことによるものであるから、原告は被告に対し、昭和五二年五月一二日の本訴口頭弁論期日において、本件異議申立取下の意思表示を取消す旨の意思表示をした。
(三) 取下の無効
本件異議申立取下の意思表示は、前記阿部調査官が蔭山をなかば拘禁状態において不当に長く連日にわたって追及した結果、疲労と空腹が重なって精神状態がもうろうとなった同人が、細部に及ぶ判断力に欠ける状態でしたものである。したがって、蔭山のした本件異議申立取下の意思表示は無効である。
3 本件更正処分の違法
被告のした各更正処分には、次の違法がある。
(一) 建物価額過少評価
被告は、原告が昭和四八年四月二七日、訴外清水忠治から買得した別紙物件目録記載(一)の建物の価格が四〇四万一三〇〇円であるのに、これを九〇万円と評価した。
(二) 農機具買換の圧縮損否認
被告は、原告が昭和四八年五月二〇日ころ交換によって取得したコンバインの圧縮記帳による損金七〇万三八四〇円及び同年五月三一日買得したトラクターの圧縮記帳による損金八九万四〇〇円を否認した。
(三) 土地譲渡益認定
被告は、原告が昭和四八年四月二五日、別紙物件目録記載(二)の土地を長谷川雅昭に売却した譲渡益がないのに譲渡益五一七万四一六〇円を認定した。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1は認める。
2 同2は否認する。
3 同3は争う。被告のした各処分は、いずれも適法である。
三 被告の主張
本件異議申立の取下書は、原告主張のごとく被告係官の強迫、強制にわたる行為によるものではなく、蔭山の自由意思に基づいて作成、提出され、被告において適法に受理されたものである。したがって、本件異議申立の取下は、原告から被告に右取下書が提出された昭和五〇年一月三〇日その効力を生じ、当初から異議の申立はなかったことに帰する。それゆえ、いったん適法に取下がされた以上、右取下を撤回することは許されないというべきである。
よって、本件訴えは、本件課税処分に対する適法な不服申立を欠くことになり、国税通則法一一五条一項の規定により不適法として却下されるべきである。
第三証拠
一 原告
1 甲第一ないし第四号証、第五号証の一、二、第六、七号証、第八号証の一ないし三、第九、一〇号証、第一一号証の一、二、第一二ないし第一六号証、第一七号証の一、二、第一八ないし第二二号証、第二三号証の一ないし六、第二四ないし第二八号証、第二九号証の一ないし一三、第三〇ないし第三三号証、第三四号証の一、二、第三五号証の一ないし七、第三六号証の一ないし三、第三七号証、第三八号証の一、二、第三九ないし第四二号証(第四三号証は欠番、)第四四号証、第四五号証の一、二、第四六ないし第五〇号証、第五一号証の一ないし四、第五二、五三号証、第五四号証の一、二、第五五、五六号証、第五七号証の一ないし四、第五八、五九号証の各一ないし三、第六〇号証。
2 証人阿部富圭、原告会社代表者。
3 乙号各証の成立は認める。
二 被告
1 乙第一号証、第二号証の一、二、第三ないし第九号証。
2 証人阿部富圭。
3 甲第一ないし第四号証、第五号証の一、二、第八号証の一ないし三、第九号証、第一一号証の一、第一二号証、第一四、一五号証、第一八号証、第二七号証、第二九号証の一ないし一二、第三二、三三号証、第三四号証の二、第三五号証の一ないし三、五、六、第三六号証の一ないし三、第三七号証、第三八号証の一、第四〇、四一号証、第四四号証、第五二、五三号証、第五四号証の一、二、第五五、五六号証、第五七号証の四、第五八、五九号証の各二、三、第六〇号証の成立は認める。第三九号証、第四八号証の原本の存在及び成立は認める。第六号証のうち最下段の数字(459.900)部分の成立は不知、その余の成立は認める。第七号証のうち異議申立額のうち還付税額欄の数字(527.100)部分の成立は不知、その余の成立は認める。第一〇号証のうち修正確定に基づく異議申立額欄五行目(前回分31.700)部分及び重加算税欄の訂正部分の成立は不知、その余の成立は認める。第一一号証の二のうち一丁上部欄外及び右下欄外の文字部分の成立は不知、その余の成立は認める。第二二号証のうち行田市長作成部分の成立は認め、その余の成立は不知。第三四号証の一のうち一丁上部欄外の文字部分の成立は不知、その余の成立は認める。第三五号証の四のうち下段記載(領収書以下の部分)の成立は不知、その余の成立は認める。第三五号証の七のうち三丁S50の記載部分の成立は不知、その余の成立は認める。第五九号証の一の原本の存在及び成立は不知。その余の甲号各証の成立は不知。
理由
一 請求原因1は当事者間に争いがない。
二 請求原因2(一)について
成立に争いのない甲第三三号証、証人阿部富圭の証言、原告会社代表者本人尋問の結果によれば、原告は昭和五〇年二月三日被告に対し、「意思表示取消申立書」と題する書面を提出し、本件異議申立の取下の撤回を申出た事実が認められる。しかし、異議申立の取下は、当該異議申立の効果を遡及的に消滅させる行為であり、いったん適法に取下がされた以上、右異議申立は当初より不存在に帰し、その後右取下の撤回を申出たとしても、もはや撤回すべき対象が存在しないのであるから、このような取下の撤回は許されないというべきである。したがって、原告のした前記取下の撤回の申出によって異議申立取下の効果が消滅するいわれはなく、この点に関する原告の主張は理由がない。
三 請求原因2(二)について
原告会社代表者は、本件異議申立の審理に際し被告の担当係官である阿部調査官に脅された旨供述する。しかし、他方成立に争いのない甲第三五号証の一ないし三、五、六、同号証の四のうち下段に領収書と記載された以下の文字及び数字を除いた部分、同号証の七のうち三丁中央部に記載のある文字S50を除いた部分、乙第一号証、第五ないし第九号証並びに証人阿部富圭の証言、原告会社代表者本人尋問の結果(信用しない部分を除く。)を総合すれば、当時行田税務署法人税源泉所得税部門の国税調査官であった阿部富圭が、本件異議申立の審理の担当官として昭和五〇年一月二七日及び同月三〇日の二回にわたり原告方へ臨場したこと、一月二七日の臨場にあたっては事前連絡がされたこと、調査時間は、一月二七日は午前一〇時ころから午後〇時三〇分ころまで及び午後二時三〇分ころから午後四時三〇分ころまでであり、同月三〇日は午前一〇時三〇分ころから午後一時三〇分ころまでであったこと、調査場所は原告方事務所の座敷であったこと、調査に際して蔭山は審理の対象となる事業年分の帳簿、領収書等の原始記録の他にコピー用紙を用意していたこと、調査の際、蔭山の態度や供述がその都度変わるため、阿部調査官は後に問題が起きた場合に備えて蔭山に同人の供述内容を書面にすることを依頼したこと、蔭山は右依頼に応じて、主として問題となった原告の農機具の購人の日時、金額等に関して、一月二七日には「申立書」と題する書面五通(甲第三五号証の三、五、六、同号証の四のうち下段に領収書と記載された以下の文字及び数字を除いた部分、同号証の七、乙第八、九号証)を作成し、同月三〇日には「申立書」と題する書面一通(甲第三五号証の二)及び「資金源泉表」と題する書面一通(甲第三五号証の七のうち三丁に記載のある文字S50を除いた部分)を任意に作成したこと、阿部調査官の調査の主眼点が原告の農機具の購人の時期及びその資金源にあったところから、同調査官は一月二九日訴外合資会社栗原農機製作所へ反面調査におもむき、当該農機具の購入先、納品月日、金額等が蔭山の申立てるところと異なり、買い換えの特例の適用を受けるものでないことを確認し、おおむね本件異議申立は棄却されるものではないかとの判断のもとに、同月三〇日再度原告方に調査におもむいたこと、同日の調査の際は蔭山の申出により昼食時間をつうじて調査が続けられたが、同日午後〇時五五分ころ蔭山が異議申立の取下をするから取下書の書き方を教えてくれと申出たこと、これに対して同調査官は、一応異議申立の取下をあえてするには及ばない旨を述べたが、蔭山の取下の意思が固いものと判断し、取下書の文面、書き方については指導しなかったが、取下の理由、異議申立の年月日などは必ず記載するよう説明したこと、取下書は蔭山が用意のコピー用紙に自筆で記載したこと、取下書を書く際、蔭山の態度は冷静であったことが認められ、原告会社代表者本人尋問の結果中右認定に反する前記供述部分は、右認定に用いた前記証拠に照らし信用できず、他に右認定をくつがえし請求原因2(二)の事実を認めるに足りる証拠はない。それゆえ、右認定の事実に照らせば、原告は自由な意思に基づき自発的に本件異議申立の取下をしたものというべきである。
四 請求原因2(三)について
原告会社代表者本人尋問の結果によるも、原告の主張する取下の意思表示の無効原因たる事実を認めるに至らず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
五 以上の次第であるから、原告のした本件異議申立は、取下により、申立がなかったことになる。
六 結論
以上認定の事実によれば、原告の本件訴えのうち、
1 被告が昭和四九年五月三一日付でした重加算税の賦課処分の取消を求める部分は、右処分が既に被告のした同年九月三〇日付取消決定により取消されているから、その対象を欠くものであり、
2 被告が同年五月三一日付でした更正処分の取消を求める部分は、右処分が被告が同年九月三〇日付でした再更正処分により消滅に帰しているから、その対象を欠くものであり、
3 その余の各処分の取消を求める部分は、国税通則法一一五条一項の規定による不服申立の前置を欠くものであり、いずれも不適法というべきである。
よって原告の本件訴えは、その余の点につき判断するまでもなく、いずれも不適法であるからこれを却下し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 宇野栄一郎 裁判官 萩原孟 裁判官 山田知司)
物件目録
(一)
所在 行田市大字樋上字武良内八三番地
家屋番号 同大字一二番
種類 居宅
構造 木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建
床面積 五二・〇六平方メートル
(二)
所在 行田市向町
地番 四六三番一
地目 宅地
地積 七一七平方メートル